リテインドサーチの費用は、何に対して払っているのか
着手金・中間金・成功報酬という三分割は、支払いを分けているだけの仕組みではありません。各段階で何が納品され、決まらなかったときに何が残るのかを整理しました。
リテインドサーチの見積を最初に見たとき、多くの方が疑問に思われるのは「決まらなくても払うのか」という一点です。答えは、着手分については払います。では何に対して払っているのか、という話をします。

分割は支払い方法ではなく、納品の区切り
着手金・中間金・成功報酬という三分割は、金額を三回に分けているのではありません。それぞれの段階で別のものが納品されます。 何が納品されるのかを契約前に確認しておくと、進行中に「今どこにいるのか」が判断できるようになります。
| 段階 | この段階で行われること | 決まらなくても手元に残るもの |
|---|---|---|
| 着手 | 要件定義、対象となる企業・職種の範囲設定、市場に該当者がいるかの確認 | そのポジションが今の条件で成立するかどうかの回答 |
| 中間 | 個別の候補者の特定と接触、初期面談、意向の確認 | 実在する候補者の像と、動かない理由の一覧 |
| 成功 | 選考の進行、条件交渉、入社まで | — |
図1 段階ごとに何が手元に残るか
着手段階の納品物は、候補者リストではありません。「その要件の人は市場にいるのか」「いるとして、今の条件で動く可能性があるのか」という回答です。これが否だった場合、そこで止めることも含めてこの段階の成果です。
要件を定義する
解く課題、決裁の範囲、評価の指標を文書にします。
市場を確認する
その要件の人が実在するか、今の条件で動きうるかを調べます。
個別に接触する
特定した人に直接あたり、意向を確認します。
選考を進める
面談の設計と、条件の交渉。
入社と着任
引き継ぎの期間を含めて日程を組みます。
図2 着手から入社までに実際に進む順番
なぜ着手時に払う形をとるのか
成功報酬型の場合、探す側の収入は「決まること」にのみ紐づきます。すると合理的な行動は、決まりやすい候補者を早く出すことになります。母集団が大きい職種ではこれで問題ありません。
該当者が少ない職種では、この動機が逆に働きます。要件に完全には合わないが動きそうな人と、要件に合うが動かない人がいたとき、成功報酬型では前者を出す方が合理的です。着手時に費用が発生する形は、この動機を切り離すために使われます。
同時に、依頼する側にも制約がかかります。原則として依頼は一社に限定されます。同じポジションを複数社が扱うと、少数の該当者に複数の経路から同じ話が届き、その時点で候補者は検討から降ります。
見積を受け取ったときに確認したい項目
総額よりも先に確認しておくと、後で揉めにくい項目があります。
- 報酬の算定基準。 年収のどの範囲を基準にするか。基本給のみか、賞与や株式報酬を含むか。
- 着手金の扱い。 成功報酬に充当されるのか、別枠か。
- 中止したときの条件。 途中で採用を取りやめた場合、どこまでが発生するか。
- 保証期間。 早期に退職した場合の取り決め。期間と、返金か再サーチかの別。
- 対象外とする企業の範囲。 サーチ側が声をかけない企業(既存の取引先など)の指定。
- 進捗の報告頻度と形式。 何を、どのくらいの頻度で共有するか。
総額は最後で構いません。先に「決まらなかったとき何が残るか」を聞くと、その会社がこの仕事をどう捉えているかが分かります。
答えが「候補者リスト」だけであれば、それは着手金つきの成功報酬型です。名前は同じでも中身が違います。
費用より先に決まっていないと止まるもの
着手前に社内で決まっていないと、進行が止まる項目があります。順に埋まっていない場合、着手の段階でその整理から入ることになります。
- 雇用の主体。 日本法人か、海外本社からの直接雇用か。取締役として就任するかどうか。
- 決裁の範囲。 予算・採用・値決め・契約のどこまでをその人が決められるか。
- 報酬の設計。 固定と変動の比率、評価の期間。
- レポートライン。 組織図上の報告先ではなく、実際に意思決定をしている人。
- 面接に出る人。 経営層の採用では、誰が会うかがポジションの位置づけとして読まれます。
このうち一つでも空欄のまま候補者に会うと、優秀な人ほど早い段階で離脱します。悪い条件だから断られるのではなく、判断できないから保留される、という形になります。
高いか安いかの判断
費用の妥当性は、他社の見積との比較では判断しにくい種類のものです。比較しやすいのは次の二つです。
一つは、そのポジションが埋まらないまま経過する時間の費用です。事業計画上、そのポジションが空いていることで遅れる意思決定が何かを書き出すと、比較対象が具体的になります。
成功報酬型で足りる
急ぐが母集団はある。複数社に同時に依頼して速度を取ります。
リテインド型が要る
急ぐうえに該当者が少ない。探しにいく以外の方法がありません。
社内での調整が先
急がず母集団もある。要件の整理に時間を使える局面です。
要件から見直す
急がないが該当者もいない。条件が市場と噛み合っていない可能性があります。
図3 どちらの形が向くかは、この二軸で決まる
もう一つは、合わない人を採った場合の費用です。経営層の場合、入れ替えには報酬だけでなく、組織側の消耗と、その期間に決まらなかった判断が積み上がります。ここまで含めて比較する方が、実態に近くなります。
本記事は一般的な契約実務の整理であり、特定の条件や金額を示すものではありません。実際の条件は個別の契約によって異なります。