経営層のリファレンスチェックは、誰に何を聞くのか
経営層のリファレンスチェックは、評判を集める手続きではありません。面接で確かめきれなかった論点を、誰に、どう聞くかを先に決めておくことで、初めて判断の材料になります。
経営幹部の採用で、リファレンスチェックは最終段の手続きとして扱われがちです。内定を出す直前に、候補者が挙げた相手へ電話をし、「特に問題はありませんでした」という記録を残す。これでは、確認したという事実は残っても、判断の材料はほとんど残りません。
この階層のリファレンスで意味があるのは、面接で確かめきれなかった論点を、その場面を見ていた人に聞くことです。誰に聞くかと何を聞くかは、面接の設計と一続きで決めておく必要があります。

何を確かめるために行うのか
在籍した会社、役職、担当した範囲といった経歴の事実関係は、書類と面接である程度まで確認できます。リファレンスで取りに行くのは、それとは別の種類の情報です。本人が語った出来事が、別の立場からはどう見えていたか。意思決定の場で、周囲とどう関わっていたか。
逆に言えば、何を確かめたいのかが決まっていないまま実施すると、相手は一般的な好評価を返すしかありません。候補者が挙げた相手であれば、なおさらです。実施の前に、面接官の間で未解決の論点を二つか三つに絞っておくことが出発点になります。
リファレンスは面接の続きであり、面接で残った問いを持ち込む場です。
問いが決まっていなければ、返ってくるのは評判であって、判断の材料ではありません。
誰に聞くのか
経営層の場合、上司・同僚・部下という区分だけでは足りません。取締役会や投資家、主要な取引先など、社外の関係者がこの人の仕事を近くで見ていることが多いためです。立場が違えば、同じ人物について見えているものも違います。
上に立っていた人
取締役会や親会社、前任の上司。期待に対して何を実現したか、報告と説明の質が見えています。
横に並んでいた人
同じ経営チームの役員。意見が対立したときの振る舞いや、協働の仕方が見えています。
下で働いていた人
直属の部下。任せ方、育て方、人が離れた場面での対応が見えています。
外から見ていた人
投資家や取引先。約束の守り方や、厳しい局面での説明の仕方が見えています。
図1 立場によって見えているものが違う
すべての立場に聞く必要はありません。先に絞った論点ごとに、それを見ていた立場を選びます。たとえば組織の立て直しが論点であれば、部下の側から見た話は欠かせません。対外的な信頼が論点であれば、外から見ていた人の話が要ります。
候補者が挙げた相手だけでよいか
候補者本人が挙げた相手は、当然ながら好意的に評価する人です。それ自体は問題ではありません。好意的な相手からでも、具体的な場面を引き出せれば十分な情報になります。判断すべきは評価の高さではなく、語られる場面の具体性です。
一方で、候補者を通さずに関係者へ連絡を取る照会は、慎重に扱うべきです。現職に転職の動きが伝わることは、候補者にとって大きな不利益になり得ます。本人の了承なしに照会先を広げない、広げる場合は相手と範囲を事前に伝える、という線を社内で決めておくことが前提になります。
| 照会先 | 得られるもの | 注意すること |
|---|---|---|
| 候補者が挙げた相手 | 具体的な場面の詳細 | 好意的な前提で聞き、場面の具体性で判断する |
| 候補者の了承を得て追加した相手 | 論点に直接関わる立場からの見方 | 誰に、何を聞くかを事前に伝えておく |
| 了承なく探し当てた相手 | 別の角度からの見方 | 現職に動きが伝わる恐れがあり、候補者との信頼を損ねる |
図2 照会先の広げ方と、それぞれの注意点
何を聞くのか
面接と同じく、抽象的な質問には抽象的な答えが返ります。「どんな方ですか」「強みは何ですか」と聞けば、相手は無難な言葉を選びます。聞くべきなのは、相手が実際に居合わせた場面です。
- 「一緒に進めた案件で、この方が判断を変えた場面はありましたか。何がきっかけでしたか」
- 「意見が割れたとき、この方はどう収めましたか」
- 「この方のもとから人が離れたことがあれば、どういう事情でしたか」
- 「もう一度一緒に働くとしたら、どの役割をお願いしたいですか。お願いしないのはどの役割ですか」
最後の問いは、否定的な評価を直接求めずに、向き不向きを引き出す聞き方です。相手が言葉を選ぶ間や、問いによって答えの具体性に差が出ることも、それ自体が情報になります。
誰が聞き、どう記録するのか
経営層のリファレンスを人事担当者だけが行うと、相手の答えに対して踏み込んだ確認ができないことがあります。論点を理解している役員、あるいは選考を支援しているサーチ会社が聞き手になる方が、具体的な場面まで降りていけます。
論点を絞る
面接官の間で、まだ確かめきれていない論点を決めます。
照会先を選ぶ
論点ごとにそれを見ていた立場を選び、候補者の了承を得ます。
聞き手と質問を決める
論点を理解している人が、場面を尋ねる質問を用意します。
記録を揃える
評価の言葉ではなく、語られた場面と発言をそのまま残します。
合議で読む
面接での評価と並べ、論点ごとに判断を更新します。
図3 リファレンスを判断の材料にする進め方
記録で注意したいのは、聞き手の要約だけを残さないことです。「評価は高い」と書かれた記録からは、合議の場で何も読み取れません。面接での評価と食い違う話が出たときこそ、元の発言が必要になります。
選考の始めに、何を決めておくか
リファレンスチェックは、最終段で急いで行うほど形式に寄ります。選考を始める段階で次のことを決めておくと、実施の質が変わります。
- 面接のどの段階で、未解決の論点を洗い出すか。
- 照会先の提示を、候補者にいつ、どう依頼するか。
- 了承のない照会をしないという線を、社内で共有しているか。
- 誰が聞き手になり、どの形式で記録を残すか。
- 結果を面接での評価と、どの場で突き合わせるか。
もう一つ付け加えると、候補者もこの過程を見ています。照会の進め方が丁寧かどうかは、着任後にどう扱われるかの予告として受け取られます。確認の手続きは、会社側が見られている場面でもあります。
本記事は一般的な選考実務の整理であり、特定の企業や案件について述べたものではありません。