COOを置くかどうか、置くなら何を任せるのかを決める
COOは会社ごとに役割の中身が大きく異なる役職です。採用を始める前に、なぜ置くのか、代表が何を手放すのかを決めておくことが、選考と着任後の両方を左右します。
COOの採用を検討する会社で、話が前に進まなくなる場面はよく似ています。候補者と会い始めてから、関係者がそれぞれ少しずつ違うCOO像を持っていたことが分かる、という形です。代表は自分の右腕を、取締役会は次の経営者候補を、事業の責任者たちは部門間の調整役を思い浮かべていた、ということが起こります。
CFOやCTOと違い、COOには職能として定まった中身がありません。何を任せるかは、代表が何を手放すかの裏返しです。そのため、採用要件を書く前に、代表と取締役会が「なぜ置くのか」を同じ言葉で説明できる状態にしておく必要があります。
COOは、どの問題を解くために置くのか
COOを置く理由は、肩書きからではなく、いま会社が抱えている問題から考えると整理しやすくなります。同じCOOという名前でも、解こうとしている問題によって、求める経験も、任せる範囲も、着任後に何をもって評価するかも変わります。
実行を引き受ける
代表が外部との関係や資金、事業の方向づけに時間を使い、日々の運営と部門間の調整をCOOが持つ形です。
経験を補う
代表にない経験、たとえば組織が大きくなる段階の運営や、複数の事業を並行して回す経験を外から持ち込む形です。
転換を進める
事業の組み替えや業務の作り直しなど、期間と目的がはっきりした変化を担う形です。
次の経営者を準備する
将来の代表候補として迎え、経営全体を見る経験を積んでもらう形です。
図1 COOを置く理由は、おおむね次のように分かれる
問題になるのは、これらが混ざったまま採用が始まることです。たとえば「実行を引き受けてほしい」と「次の経営者になってほしい」は、求める人物像がかなり違います。前者は代表の方針を確実に形にする力を、後者は自分で方針を立てる力を見ることになり、面接で評価する観点も逆向きになります。一つに絞るか、少なくとも主と従を決めておくことが、選考の前提になります。
置かないという選択肢と比べる
COOの採用を考えるきっかけの多くは、代表の時間が足りない、あるいは部門の間で物事が止まる、という感覚です。ただ、その問題を解く手段はCOOだけではありません。他の手段と並べてみると、COOでなければ解けない問題なのかどうかが見えてきます。
| 手段 | 向いている状況 | 注意する点 |
|---|---|---|
| COOを置く | 部門をまたぐ判断が代表に集中し、それが事業の速度を落としている | 代表との役割の境界が曖昧だと、意思決定の経路が二つになる |
| 事業の責任者を強める | 止まっているのが特定の事業や部門に限られている | 部門をまたぐ調整の問題は残る |
| 管理部門の責任者を置く | 負担の中心が財務や人事、社内の仕組みづくりにある | 事業側の運営には手が届かない |
| 代表の時間の使い方を見直す | 代表が手放せる仕事を手放していない | 採用ではなく、代表自身の判断が必要になる |
図2 COOを置く場合と、他の手段との比較
比べた結果、COOを置くという結論になることは多くあります。それでも比較しておく意味は、候補者に「なぜCOOなのか」と問われたときに答えられるようになることです。経営層の候補者は、この問いへの答え方で、ポジションが設計されているかどうかを判断します。

代表が手放すものを、具体的に書き出す
COOに何を任せるかは、代表がいま持っている仕事を並べ、そのうち何を手放すかを決めることで具体的になります。ここが抽象的なままだと、着任したCOOは何を自分の判断で進めてよいのか分からず、結局は代表に確認しにいくことになります。代表の側も、任せたつもりの領域に口を出してしまいます。
書き出すときは、代表の判断が欠かせないかどうかと、代表が実際に時間を使っているかどうかの二つで分けると整理しやすくなります。
仕組みで支える
代表が持つべきだが手が回っていない領域です。COOには判断ではなく、代表が判断できる状態を整える役割を任せます。
代表が持ち続ける
COOを置いても代表の仕事として残る領域です。候補者には最初から伝えておきます。
放置の理由を確かめる
誰も持っていない領域です。COOに渡す前に、なぜ手つかずなのかを確認します。
まずCOOに移す
代表の時間を使っているが、代表でなくても判断できる領域です。ここを移すことがCOOを置く効果になります。
図3 代表の仕事を二つの軸で分け、COOに移す領域を見つける
右下に入る仕事が少ない場合は、COOを置いても代表の時間は空かない可能性があります。逆に、右下が多いのに代表が手放すことに抵抗を感じるなら、その抵抗が何に由来するのかを先に話し合っておく方がよいでしょう。着任後に起きる代表とCOOの衝突の多くは、ここで決めきれなかったことの表れです。
権限の境界と、代表との関係をどう決めるか
任せる領域が決まったら、次はその領域でCOOがどこまで自分で決められるかを決めます。予算の範囲、人の配置や評価、取引先との条件など、決裁の線を事前に引いておかないと、現場は代表とCOOのどちらに確認すればよいか迷います。そして迷ったとき、現場は長く付き合ってきた代表の方に聞きにいきます。
- 事業の責任者は、代表とCOOのどちらに報告するのか。両方に報告する形は、判断が割れたときの扱いを決めておかないと機能しません。
- 代表とCOOの意見が分かれたとき、どう扱うのか。最終的には代表が決めるとしても、その場を現場の前にするのか、二人の間で済ませるのかで、COOの立場は大きく変わります。
- 取締役会との関係をどうするのか。COOが取締役会に出るのか、出るならどの議題で発言するのかを決めておきます。
権限は、肩書きではなく決裁の線で伝わります。候補者には、どの判断を自分で下せるのかを具体的に示します。
代表がCOOの判断を現場の前で覆すことが続くと、権限の線は事実上消えます。境界を決めることは、代表自身の振る舞いを決めることでもあります。
候補者に会う前に、何を決めておくか
ここまでの整理を、候補者に会う前の段取りとしてまとめると次のようになります。すべてを細部まで固める必要はありませんが、どこまで決まっていて、どこが未定なのかを説明できることが大切です。
置く理由を一つに絞る
解きたい問題を言葉にし、代表と取締役会で同じ理解になっているかを確かめます。
他の手段と比べる
COOでなければ解けない理由を、候補者に説明できる形にしておきます。
手放す領域を書き出す
代表の仕事を分け、COOに移す領域と代表に残す領域を決めます。
権限と報告の線を決める
決裁の範囲、事業の責任者の報告先、意見が分かれたときの扱いを決めます。
評価の観点と時期を決める
着任後、何をもって役割を果たしていると判断するかを、いつ誰が確認するかと合わせて決めます。
図4 COOの採用に入る前の段取り
最後の段取りが抜けると、着任したCOOは何を期待されているのかを手探りで確かめることになります。評価の観点を先に置いておくことは、候補者にとっても、このポジションが本気で設計されているかを判断する材料になります。まずは代表と取締役会で、置く理由と手放す領域の二つについて話し合う時間を取ることから始めてみてください。
本記事はCOOの採用を検討する際の一般的な論点の整理であり、特定の企業や案件について述べたものではありません。