カウンターオファーを受けたときに考えること
退職を伝えた後に現職から提示される条件をどう扱うか。金額の比較ではなく、何が変わって何が変わらないのかを分けて考えるための整理です。
経営層の退職の申し出に対して、現職から条件の見直しが提示されることがあります。報酬の引き上げ、役職の変更、権限の拡大。いわゆるカウンターオファーです。
受けるべきか断るべきかという一般論には、あまり意味がありません。判断の材料になるのは、もともと辞めようとした理由が、その提示で解消されるのかどうかの一点です。

まず、辞めようとした理由を書き出す
提示された条件を見る前に、自分が動こうと思った理由を書き出しておきます。順番が逆になると、条件の魅力に引きずられて理由の方が書き換わります。
経営層の場合、理由は概ね次のどれかに分類されます。
| 理由 | カウンターオファーで解消するか | 確認すること |
|---|---|---|
| 報酬が市場と合っていない | 解消しうる | なぜ今まで是正されなかったか |
| 決裁の範囲が狭い | 解消しうるが実行が伴うか要確認 | 文書化されるか、いつからか |
| 事業の方向に納得できない | 解消しにくい | 方針を決めているのは誰か |
| 特定の人物との関係 | 解消しにくい | その人の処遇が変わる予定はあるか |
| やりたい領域が社内にない | 解消しない | — |
図1
下三つが主な理由だった場合、報酬の見直しは判断を先送りするだけになります。半年から一年で同じ状況に戻る、という形が実際によく起きます。
先送りになりやすい
是正の意図はあっても、実行の担保がない。半年で同じ状況に戻ります。
受ける判断が成り立つ
理由が報酬で、実行が文書と時期で担保されている。最も素直な形です。
解消しない
理由が構造にあり、提示も口頭。時間を買うための提示である可能性があります。
それでも解消しない
条件は整っても、事業の方向や人の問題は残ります。
図2 提示された内容が、辞めようとした理由に届いているか
「なぜ今なのか」を確認する
報酬や権限の見直しが妥当だったのであれば、それは退職の申し出とは無関係に行われているはずのものです。申し出をきっかけに提示されたということは、次のどちらかを意味します。
- 評価はされていたが、是正の優先順位が低かった。 この場合、今回是正されても、次に同じことが起きる構造は残ります。
- 引き継ぎの時期が悪い。 進行中の案件、決算、組織変更。時間を買うための提示であれば、その後の扱いは元に戻ります。
どちらであるかは、聞けば分かることが多くあります。「なぜ今このタイミングで提示されるのか」という質問に対する答えが具体的でない場合、二つ目の可能性を考えておく必要があります。
受けた場合に起きること
実務上、考慮しておくべき点がいくつかあります。
図3 受けた場合に残るもの
- 辞める意思を示した事実は残ります。 経営層の場合、後継の検討が始まっていることがあります。
- 次に動くときの条件が変わります。 一度残った人が再び動くとき、周囲は「今回も引き止められるのでは」という前提で見ます。
- 辞退した先との関係。 経営層の市場は狭く、同じ相手と別の機会に再び向き合うことがあります。断り方は残ります。
先方に断りを入れる場合、理由を曖昧にしない方が後々よい関係が残ります。「現職から条件の見直しがあり、そちらを受けることにした」と伝えるのが最も一般的です。
条件面で折り合わなかった場合も、どこがどう合わなかったかを伝えておくと、次の機会に精度の高い話が来ます。
断った場合に確認しておくこと
現職に残らないと決めた場合、退職までの進め方で確認しておく項目があります。
- 退職日と、引き継ぎの範囲
- 役員として登録されている場合の手続きと時期
- 報酬の未払い分、株式報酬の権利の扱い
- 競業避止に関する取り決めの有無と範囲
- 退職の社内外への伝え方と時期
四つ目については、契約の文言と実際の効力の範囲が一致しないことがあります。判断が必要な場合は、契約書を持って弁護士にご確認ください。この記事は論点の所在を示すもので、有効性を判断するものではありません。
決め方の順番
- 提示を見る前に、辞めようとした理由を書き出す。
- その理由が、提示された内容で解消するかを一つずつ確認する。
- 解消するものについて、いつ・どういう形で実行されるかを聞く。口頭の合意は残らないという前提で。
- 「なぜ今か」を聞く。
- 解消しない理由が残るなら、それがどれだけ重いかで決める。
この順番で考えると、金額の大小はあまり判断を動かしません。動くとすれば、もともとの理由が報酬だけだった場合です。その場合は、受けることが合理的な判断になり得ます。
本記事は一般的な整理であり、個別の契約や状況について判断するものではありません。競業避止や退職の条件については、契約書に基づいて弁護士にご確認ください。