企業向け ONBOARDING

経営幹部の最初の90日を、受け入れ側がどう設計するか

採用より難しいのは着任後です。権限の移譲、既存メンバーとの関係、最初の意思決定。受け入れ側が用意しておくべきことを時期ごとに整理しました。

約5分で読めます

経営幹部の採用が失敗したと言われるとき、選考の見極めが原因だったケースは実は多くありません。多いのは、着任後の数か月で受け入れ側が用意していなかったことが積み上がり、双方が「思っていたのと違う」に至る形です。

現場の中途採用と違い、経営層は「慣れてもらう」対象ではありません。着任初日から意思決定を求められる立場であり、そのための材料を渡すのは受け入れ側の仕事です。

着任した責任者がチームへ方針を共有する場面をイメージしたシーン
※イメージ画像

着任前に済ませておくこと

内定から着任までの期間にやっておけることは、実務上かなりあります。

1

着任前

発表の順番、権限の文書化、会う相手のリスト、数字一式。

2

最初の30日

判断させない。情報収集を仕事として明示し、報告の場を先に決めます。

3

31〜60日

小さく決めさせる。最初の決裁が通る場面を作り、周囲に見せます。

4

61〜90日

方針を出させる。事前説明と実際のずれをどう扱うかを決めます。

図1 着任前・30日・60日・90日でやることが入れ替わる

  • 社内への発表の文面と順番を決める。 誰にいつ伝えるか。既存の管理職が人事異動を噂で知る状態にしない。
  • 権限の範囲を文書にする。 予算・採用・契約・値決めのそれぞれについて、決裁できる金額と、承認が必要な場合の相手。
  • 最初に会うべき人のリストを作る。 社内の主要な関係者と、社外の主要な取引先。役職ではなく、実際に情報と判断が集まっている人を選ぶ。
  • 現状の数字を一式そろえる。 直近の予実、部門別の状況、進行中の主要案件。着任してから探させない。
発表の順番で決まること

既存の管理職にとって、新しい上位者の着任は自分の立ち位置の変化です。事前に個別に伝えられたかどうかが、その後の協力の度合いに直接影響します。

特に、そのポジションに社内候補がいた場合。伝えないまま発表すると、着任した人が理由を知らないまま冷たい対応を受けることになります。

最初の30日 ─ 判断させない

この期間に大きな意思決定を求めると、材料のないまま決めることになります。逆に、何も求めないと「様子見の人」という評価が固まります。

設計としては、情報収集を仕事として明示するのが最も無難です。

  1. リストにした社内外の相手と、一対一で会う時間を先に押さえておく。
  2. 定例会議には出席するが、発言を求めない期間をあらかじめ決めて共有する。
  3. この期間の終わりに「見えたこと」を報告する場を設定する。何を出すかも事前に合意しておく。

三つ目が重要です。期限と成果物が決まっていれば、周囲から見て「今この人が何をしているか」が説明できます。

31日から60日 ─ 小さく決めさせる

この段階で必要なのは、大きな改革ではなく決裁が実際に通ることの確認です。

権限の範囲が文書になっていても、実際に使ってみるまで機能するかは分かりません。文書上は決裁できるはずの案件が、慣習として別の承認を求められる、という状態はよくあります。

受け入れ側がやるべきことは、最初の決裁が通る場面を作り、それを周囲に見せることです。ここで一度でも差し戻しが入ると、その人の権限は社内的に無効化されます。回復には数か月かかります。

文書に書かれている予算・採用・契約の決裁上限が明記されている状態。
実際に通る文書上は決裁できても、慣習として別の承認を求められることがあります。
周囲が見ている最初の決裁が通る場面が社内から見えているか。差し戻しが一度入ると無効化されます。

図2 権限は、この三つが揃って初めて機能する

61日から90日 ─ 方針を出させる

ここで初めて、その人の考えを聞く段階になります。多くの場合、着任前に説明されていた課題と、実際に見えた課題はずれています。そのずれをどう扱うかが、この時期の中心的な論点です。

起きること受け入れ側の対応やってはいけないこと
課題の認識が事前説明とずれたずれた理由を一緒に確認する事前説明を守らせる
優先順位の変更を提案された変更の可否を明確に答える保留にしたまま時間が経つ
既存の施策の中止を提案された中止の判断権限がどこにあるか示す本人に社内調整を丸投げする
人事の入れ替えを提案された判断の基準と時期を合意する着任直後だからと一律に止める

図3

受け入れ側が持ち続ける役割

着任した人に社内の人間関係を一から作らせるのは、時間の使い方として効率が悪く、失敗の確率も上がります。90日間は、代表または担当役員が次の役割を持ち続ける前提で設計します。

代表または担当役員が持ち続ける役割

翻訳役

明文化されていない慣習と過去の経緯を説明します。

後ろ盾

決裁が通らない場面で、権限の所在を明確にします。

定例の確認

週次で短時間。相談を待つのではなく、認識のずれを早期に見つける場として。

図4 90日間、受け入れ側が手放してはいけない三つ

  • 翻訳役。 社内の慣習や過去の経緯のうち、明文化されていないものを説明する。
  • 後ろ盾。 決裁が通らない場面が起きたときに、権限の所在を明確にする。
  • 定期的な確認。 週次で短時間。困っていることを聞く場ではなく、認識のずれを早期に見つける場として。

三つ目を「本人から相談があれば」にすると、機能しません。経営層として採用された人は、着任直後に困っていると言いにくい立場にあります。定例として設定しておく方が確実です。

設計できているかの確認

  1. 着任前に、社内への発表の文面と順番が決まっているか。
  2. 権限の範囲が、金額まで含めて文書になっているか。
  3. 最初に会う相手のリストが用意されているか。
  4. 30日時点で何を報告してもらうか、事前に合意しているか。
  5. 最初の決裁を通す場面が想定されているか。
  6. 週次の確認の場が、定例として設定されているか。

採用にかけた費用と時間に比べれば、ここに使う手間はわずかです。それでも用意されていないことが多いのは、採用の完了を「入社日」と考えているためだと思われます。

本記事は一般的な受け入れ実務の整理であり、特定の企業や案件について述べたものではありません。

採用要件の整理からご相談ください

ポジションが固まっていない段階でも構いません。何を決める必要があるかを一緒に洗い出すところからご一緒します。ご相談は無料です。

無料相談を申し込む →