経営幹部のポジション説明書に、何を書き何を書かないか
経営幹部のポジション説明書は、業務の一覧ではなく候補者が最初に読む会社の判断です。何を書けば判断材料になり、何を書くと伝わらなくなるのかを整理します。
経営幹部の採用で最初に作られる文書は、多くの場合ポジション説明書です。社内の稟議にも、サーチ会社への依頼にも、候補者への最初の説明にも使われます。ところがこの文書は、担当者層の職務記述書の形式を借りて作られることが多く、経営層の候補者が知りたいことがほとんど書かれていない状態になりがちです。
いま動いていない候補者にとって、最初に読む文書は会社の判断の質を測る材料です。何が書かれているかと同じくらい、何が書かれていないか、何が曖昧なまま残されているかが見られています。

職務記述書と何が違うのか
担当者層の職務記述書は、決まった業務を誰が担うかを書く文書です。業務が先にあり、人はそこに当てはまります。経営幹部の場合は順序が逆で、このポジションが何を解くために置かれるのかが先にあり、業務はその人が着任後に組み立てます。
そのため、業務の列挙を中心にした説明書は、候補者から見ると「何を任されるのかが決まっていない」と読まれます。必要なのは業務の一覧ではなく、課題、権限、評価が一続きで書かれていることです。
| 項目 | 担当者向けの職務記述書 | 経営幹部のポジション説明書 |
|---|---|---|
| 中心に置くもの | 担当する業務の一覧 | このポジションが解く経営課題 |
| 求める人物 | 経験と保有スキルの条件 | 課題に対して、どの種類の経験が効くか |
| 権限 | ほとんど書かれない | 予算・人事・意思決定の範囲 |
| 評価 | 目標管理の項目 | いつ、何をもって成果と見るか |
| 報告ライン | 所属部署 | 誰に報告し、取締役会とどう関わるか |
図1 担当者向けの職務記述書と、経営幹部のポジション説明書
書くこと――課題、権限、評価
図2 説明書の骨格は、この順に積み上げる
課題の欄には、社内で使っている言葉ではなく、外の人が読んで状況が分かる言葉で書きます。「事業の再成長」だけでは何も伝わりません。どの事業の、何が止まっていて、これまで何を試したのかまで書くと、候補者は自分の経験が効くかどうかを判断できます。
権限の欄は、書かれずに残りやすい部分です。決まっていないから書けない、という場合も多いのですが、それ自体が採用の前に解いておくべき論点です。権限が書けない説明書は、ポジションがまだ設計されていないことを示しています。候補者はその点を、文書の行間から読み取ります。
書かないこと、書くと伝わらなくなること
説明書に載せない方がよいものもあります。理由は機密だけではありません。書くことで、本来伝えたいことが薄まるものがあるためです。
- 理想像を並べた人物要件。あらゆる資質を求める文書は、何を優先しているかを伝えません。
- 社内向けの経緯や人間関係の説明。必要なら面談で口頭で話す方が、文脈ごと正確に伝わります。
- 前任者への評価。どう書いても、候補者は自分が同じように書かれる日を想像します。
- 決まっていない条件を、決まっているかのように書くこと。後で変わると、それが信頼の問題になります。
人物要件は、属性ではなく能力で書きます。「日英バイリンガル」「日本市場での経営経験」「英語での取締役会経験」のように、課題に対して何ができる必要があるかで書くと、社内の評価もぶれにくくなります。年齢や出身を条件として書くことは、候補者の幅を狭めるだけでなく、文書全体の信頼を損ないます。
読む相手によって、開示の範囲を書き分ける
ポジション説明書を一つの文書で済ませようとすると、どこかで無理が出ます。社内の稟議、サーチ会社への依頼、候補者への提示では、開示できる範囲が違うからです。
社内版を先に作る
課題、権限、評価、報酬の範囲まで、決裁者と合意した内容をすべて書きます。
サーチ会社への依頼版
社内版から外に出せない固有名詞や数値を除き、課題の背景は残します。
候補者への初回版
会社名を伏せる場合でも、課題と権限の輪郭が分かる形にします。
面談後の詳細版
関心を示した候補者に、守秘の取り決めのうえで具体的な状況を開示します。
図3 説明書を、読む相手に合わせて段階的に用意する
社内版を先に作るのは、外向けの文書から書き始めると、曖昧な表現のまま社内の合意が取れたことになってしまうためです。外に出す版は、社内版から削って作ります。逆の順序で作ると、削ったのではなく最初から決まっていなかった部分が、選考の後半で表に出てきます。
説明書を渡す前に、社内で確かめること
説明書が書き上がったら、候補者に渡す前に、社内で次の点を確認しておくと、選考の途中で話が戻ることを減らせます。
- このポジションが解く課題を、決裁者が同じ言葉で説明できるか。
- 権限の範囲について、関係する役員の間で異論が残っていないか。
- 評価の時期と指標が、取締役会の認識と合っているか。
- 人物要件が、属性ではなく能力で書かれているか。
- 外に出す版で削った情報を、いつ、誰が、どの段階で開示するか決まっているか。
最後の点が決まっていないと、候補者の質問に答えるたびに社内確認が発生し、そのたびに選考が止まります。説明書は文書として仕上げるだけでなく、それを使って誰が何を話すかまで決めておくことで、初めて機能します。
本記事は経営幹部の採用におけるポジション説明書の一般的な整理であり、特定の企業や案件について述べたものではありません。