新規事業の責任者を外から迎えるとき、何を任せ何で評価するか
新規事業の責任者を外から迎えるとき、難しいのは人選よりも、何を任せ何で評価するかを先に決めることです。事業の段階、権限、評価の時期、既存事業との関係を整理します。
新規事業の責任者を社外から迎えるとき、議論の中心は候補者の経歴になりがちです。立ち上げの経験があるか、同じ領域を知っているか。けれども、着任後にうまくいかなくなる場面を振り返ると、原因は人選そのものより、何を任せ、何で評価するかが決まっていなかったことにある場合が少なくありません。
新規事業は、既存事業のように前年の実績や業界の相場で評価の物差しを借りることができません。物差しがないまま人を迎えると、評価は経営陣それぞれの期待に委ねられ、責任者は誰の期待に応えればよいのか分からなくなります。この記事では、迎える前に経営側で整理しておきたい論点を順に見ていきます。

新規事業の責任者は、既存事業の責任者と何が違うのか
同じ「事業の責任者」でも、既存事業と新規事業では、日々向き合う問いが異なります。既存事業では、決まった市場の中でどう伸ばすかが問われます。新規事業では、そもそもこの市場はあるのか、この顧客は本当に困っているのか、という前提そのものを確かめることが仕事の大きな部分を占めます。
| 観点 | 既存事業の責任者 | 新規事業の責任者 |
|---|---|---|
| 主な問い | 決まった市場でどう伸ばすか | その市場と顧客の課題が本当にあるか |
| 評価の材料 | 売上や利益の推移 | 仮説がどこまで確かめられたか |
| 権限の焦点 | 既存の組織と予算の運用 | 方針の変更と資源の配分の提案 |
| うまくいかないときの扱い | 改善の対象 | 早く分かったこと自体が成果になり得る |
図1 既存事業と新規事業で、責任者に求めるものの違い
この違いを経営陣が共有していないと、新規事業の責任者を既存事業と同じ物差しで測ってしまいます。仮説が外れたと早く報告した責任者が、数字を出せなかった人として扱われる。そうなると、責任者は悪い知らせを遅らせるようになり、撤退や方針転換の判断が遅れます。
どの段階の新規事業かで、求める人は変わる
「新規事業の経験がある人」という要件は、実は幅が広すぎます。構想を形にする段階と、検証が済んだ事業を広げる段階では、求められる力がほとんど別物だからです。まず、自社の新規事業がいまどの段階にあるのかを言葉にしておくことが、要件を絞る出発点になります。
構想段階
顧客の課題を探し、小さく試して仮説を立て直す力。少人数で手を動かせることが前提になります。
検証段階
仮説を確かめる手順を設計し、続けるか変えるかを判断材料とともに経営に上げる力。
拡大段階
検証された事業に人と予算を乗せ、組織として回る形に作り替える力。採用と仕組みづくりの比重が大きくなります。
図2 事業の段階によって、責任者に求める力は分かれる
段階と人の組み合わせがずれると、能力の高い人でも力を発揮しにくくなります。拡大の経験が豊富な人を構想段階に迎えると、まだ検証されていない事業に組織を先に作ってしまうことがあります。逆に、構想段階を得意とする人に拡大を任せると、仕組みづくりが後回しになりがちです。どちらが優れているかではなく、いまの段階に合うかどうかで見ることになります。
何を任せるのかを、着任前に文書にする
新規事業の責任者に「全部任せる」と伝える経営者は少なくありません。けれども実際には、予算の追加、既存事業の顧客への接触、人の異動など、責任者だけでは決められない事柄が数多くあります。任せる範囲が曖昧なままだと、責任者はそのたびに確認を取ることになり、動きが遅くなります。着任前に、少なくとも次の点を文書にしておくと、着任後の摩擦を減らせます。
- 責任者の判断だけで使える予算の範囲と、それを超えるときの承認の経路。
- 人を採る、外部に委託する、既存の部署から人を借りる、それぞれの決め方。
- 既存事業の顧客、販路、ブランドをどこまで使ってよいか。
- 撤退や大きな方針転換を、誰が提案し誰が決めるのか。
四つ目は特に見落とされがちです。新規事業では、続けるか止めるかの判断が避けられません。その判断を責任者が提案できるのか、提案した場合に評価がどう扱われるのかが決まっていないと、責任者は自分から止める提案をしにくくなります。
何で評価するかは、時期によって変える
新規事業の評価を、最初から売上で行うのは無理があります。かといって、何も指標を置かなければ、経営陣は不安になり、途中で口を出すようになります。現実的なのは、事業の進み具合に合わせて、評価の物差しを段階的に切り替えていく考え方です。
着任直後
現状の把握と、確かめるべき仮説の整理ができているか。経営陣と同じ前提に立てているかを見ます。
検証期
仮説を確かめる手順が回っているか。外れた仮説を早く報告し、次の手を出せているかを見ます。
続けるかの判断
続ける、変える、止めるの判断材料を、根拠とともに経営に上げられたかを見ます。
拡大期
ここで初めて、売上や利益、組織の立ち上がりといった既存事業に近い物差しを使います。
図3 評価の物差しを、事業の進み具合に合わせて切り替える
大切なのは、切り替えの時期と物差しを、着任前に責任者と合意しておくことです。途中で物差しが変わるのは自然ですが、変わることが事前に分かっているのと、ある日突然変わるのとでは、責任者の受け止め方がまったく違います。
既存事業との摩擦を、どこで受け止めるか
外から来た新規事業の責任者がつまずく場面として多いのが、既存事業との関係です。顧客や人を借りたいときに、既存事業の側には協力する理由が薄いことがあります。この摩擦を責任者が一人で抱えるのか、経営陣が受け止めるのかで、着任後の動きやすさは大きく変わります。
独立して進めやすい
責任者の裁量で動けます。既存事業との接点を意識して作らないと、孤立することがあります。
調整役が要る
経営陣が既存事業との間に立ち、協力を取り付ける役割を引き受ける前提で進めます。
期待がぼやけやすい
邪魔はされない一方で、関心も薄くなりがちです。報告の場と評価の時期を明確にします。
最も摩擦が起きやすい
既存事業の協力が必要なのに後押しがない状態です。迎える前に体制から見直す余地があります。
図4 経営陣の後ろ盾と、既存事業への依存の度合いで見る
右下の状態のまま人を迎えると、どれほど力のある人でも成果を出しにくくなります。報告先を誰にするか、既存事業の責任者と利害が衝突したときに誰が裁くのかを決めておくことが、責任者を守ることにつながります。
迎える前に、経営側で整理しておくこと
ここまでの論点を、候補者に会う前の確認として並べると次のようになります。すべてに答えが出ている必要はありませんが、答えが出ていない点がどこかを経営陣が把握していることが、候補者との対話の土台になります。
- 自社の新規事業は、構想、検証、拡大のどの段階にあるか。
- その段階に必要な力を、経歴の言葉ではなく仕事の言葉で書けるか。
- 予算、人、既存事業の資産について、任せる範囲が文書になっているか。
- 撤退や方針転換を誰が提案し、誰が決めるか決まっているか。
- 評価の物差しと、それを切り替える時期を責任者と合意できるか。
- 既存事業との衝突を、経営陣の誰が受け止めるか決まっているか。
候補者の側も、面談の中でこれらを確かめようとします。整理されていれば、それ自体が「この会社は新規事業に本気で向き合っている」という判断材料になります。整理しきれていない点があれば、それを正直に伝え、着任後に一緒に決める論点として共有するのも一つの進め方です。
本記事は新規事業の責任者を外部から迎える際の論点を一般的に整理したものであり、特定の企業や案件について述べたものではありません。