企業向け US SUBSIDIARY

米国拠点の経営幹部を、日本本社が採用するとき

日本本社が米国拠点の責任者を採るとき、選考の進め方と報酬の考え方が国内採用の延長では通用しません。ずれやすい論点を先に整理しました。

約4分で読めます

日本本社が米国拠点の責任者を探すとき、国内採用と同じ手順で進めると、候補者が途中で降りることがあります。条件が悪いからではなく、進め方が現地の常識と違うためです。

ここでは、実務でずれやすい論点を先に挙げます。制度そのものの説明ではなく、日本側が決めておくべきことの整理です。

日本本社と米国拠点をつなぐ経営会議をイメージしたシーン
※イメージ画像

1. 選考の速度

米国の経営層の採用は、日本より短い期間で進むのが一般的です。候補者は複数の話を並行して検討しており、返答が遅れると単純に他へ決まります。

日本側で時間がかかる要因は、たいてい社内の合議です。面接ごとに関係者へ持ち帰り、次の日程が二週間先になる、という進み方は現地では「意思決定ができない会社」と読まれます。

1

面接ごとの返答期限

何日以内に次の連絡をするかを決め、候補者に伝えます。

2

決裁者の登場時期

最終的に誰が決めるのか、どの段階で出るのかを示します。

3

社内合議の日数

必要なら、その日数をあらかじめ日程に組み込みます。

図1 日程を組む前に、各段階の返答期限を決めておく

先に決めておくこと

各面接の後、何日以内に次の連絡をするかを決めて候補者に伝える。

最終的な決裁者を明示し、その人がどの段階で出てくるかを示す。

社内合議が必要な場合、その日数をあらかじめ日程に組み込んでおく。

2. 報酬の組み立てが違う

固定給と賞与という日本の組み立てのまま提示すると、比較の土俵に乗らないことがあります。米国の経営層の報酬は、固定・年次賞与・長期インセンティブの三層で語られるのが一般的で、三層目が無い場合はその理由の説明が求められます。

日本の親会社の株式を付与できない、あるいは付与しにくい事情がある場合、代替として何を置くのかを先に決めておきます。現金による長期の繰延、業績連動の複数年賞与など、形は複数あります。決めずに交渉に入ると、最終段階で条件が動かせず破談になります。

固定報酬基本給。ここだけを日本の水準で提示すると比較の土俵に乗りません。
年次賞与単年度の業績に連動する部分。
長期インセンティブ株式報酬、現金の繰延、複数年の業績連動。無い場合は理由の説明が求められます。

図2 三層目が無い場合、代替を先に決めておく

3. 権限と本社への報告

国内の子会社と同じ感覚で決裁の上限を設定すると、現地の水準では極端に低くなることがあります。候補者は金額そのものより、その金額で何ができるかを見ます。

確認しておく項目は、日本側の海外事業責任者の採用と同じです。

  • 投資・採用・契約・値決めのそれぞれで、現地が決められる範囲
  • 本社の承認が必要な事項と、その所要日数
  • 報告先。組織図上の相手ではなく、実際に決めている人
  • 現地の人事権がどこまで及ぶか

時差も設計に入れます。本社との定例が現地の早朝または深夜に固定される設計は、続きません。どちらがどれだけ譲るかを先に決めておきます。

4. 選考で聞ける範囲が違う

米国の採用では、面接で尋ねられる事項の範囲が法令と判例によって制限されています。日本では一般的な質問でも、現地では避けるべきとされているものがあります。

面接官が日本から出る場合、この点は事前に共有しておく必要があります。悪意なく尋ねた質問が問題になる、という形が最も起きやすいためです。実務上の取り扱いは州によっても異なるため、現地の法律事務所または人事の専門家にご確認ください。 この記事は範囲があることを示すもので、可否を判断するものではありません。

5. 雇用の主体をどこに置くか

現地法人がすでにある場合は通常そこが雇用主になりますが、法人設立前に責任者を採るケースでは、雇用の形を先に決める必要があります。

使われる場面先に決めること
現地法人が雇用法人が既にある役員として登録するかどうか
雇用代行サービスを利用法人設立前、少人数のうち設立後に転籍する時期と条件
業務委託立ち上げ調査の段階現地の基準で従業員と扱われない設計になっているか

図3

三つ目は注意が要ります。実態が指揮命令下にあると判断されれば、契約の名称にかかわらず従業員として扱われます。判断の基準は国と州によって異なるため、契約前に現地の専門家にご確認ください。

着手前のチェックリスト

  1. 各段階の返答期限を決めて、候補者に伝えられるか。
  2. 最終決裁者が誰で、いつ出てくるか示せるか。
  3. 報酬の三層目に何を置くか決まっているか。
  4. 現地が決裁できる範囲を金額まで文書にしてあるか。
  5. 本社との定例をどちらの時間帯に置くか合意しているか。
  6. 面接官が現地の質問の制限を共有しているか。
  7. 雇用の主体と、その形が決まっているか。

七項目のうち、二番目と三番目が決まっていないまま最終面接まで進む例が最も多く、そこで止まると再開は困難です。候補者から見れば、条件を決められない会社という結論が出た後だからです。

本記事は一般的な実務の整理です。米国および各州の法令の適用、雇用区分の判断、面接で尋ねられる事項の範囲については、現地の弁護士または人事の専門家にご確認ください。本記事は可否を判断するものではありません。

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