企業向け EARLY DEPARTURE

着任した幹部が、早い段階で辞めてしまうのはなぜか

経営幹部の早期離職は、本人の能力不足より、採用の時点で言葉にされなかった前提のずれから起きることが多くあります。ずれが選考と受け入れのどこで生まれるかを整理します。

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経営幹部が着任してほどなく辞めるとき、社内では「合わなかった」の一言で片づけられがちです。しかし振り返ってみると、辞める理由の多くは着任前にすでに存在していたことが少なくありません。

本記事では、早期離職を本人の資質の問題としてではなく、採用と受け入れの設計の問題として整理します。次の採用で同じことを繰り返さないために、どこを確認しておくかを考えるための材料です。

経営陣が方針を議論している場面をイメージしたシーン
※イメージ画像

辞める理由は、どこから来るのか

退任の場で語られる理由と、実際の理由は一致しないことがあります。本人は円満に去るために一般的な理由を挙げ、会社側も深くは聞かないまま次の採用に進みます。その結果、同じ原因が次の幹部のときにも繰り返されます。

原因を大きく分けると、次の四つの類型に整理できます。いずれも単独で起きるより、いくつかが重なって起きることが多いものです。

早期離職

役割のずれ

選考で説明された課題と、着任後に実際に求められる仕事が違う。

権限のずれ

責任は渡されたが、決めるための権限が渡されていない。

関係のずれ

代表や既存の役員との間で、議論の仕方や意思決定の速さが噛み合わない。

前提のずれ

事業計画や組織の状態について、着任後に初めて知る事実がある。

図1 早期離職の原因は、四つのずれに分けて考えられる

選考で語られたことと、着任後に起きること

採用の過程では、会社側も候補者も相手に良く見せようとします。それ自体は自然なことですが、経営層の採用では、このときに生まれたずれが着任後にそのまま表面化します。

選考で語られがちなこと着任後に起きがちなこと事前に確認できること
「すべて任せます」重要な判断のたびに代表の確認が必要になるどの判断を、誰の承認なしで決められるか
「組織を変えてほしい」既存の役員や古参の社員が変化に反対する変えることに、取締役会と代表が合意しているか
「事業は順調です」計画と実績の差が大きく、立て直しが先になる計画と実績を、着任前にどこまで開示できるか
「新しい視点が欲しい」前例と違うという理由で提案が通らない過去に外部から来た幹部が何をし、どうなったか

図2 選考時の説明と、着任後に見えてくるもの

右列は、どれも選考の段階で候補者から聞かれうることです。聞かれたときに答えを用意していない会社は、着任後に同じ問いを、より重い形で突きつけられることになります。

権限と支援は、別々に考える

早期離職の振り返りでよく見られるのは、「任せたのに成果が出なかった」という会社側の言葉と、「任されていなかった」という本人の言葉が並ぶ状況です。どちらも嘘ではなく、任せるという言葉の中身が決まっていなかったことが原因です。

整理のために、渡した権限の明確さと、着任後の支援の厚さを分けて考えてみます。

権限が明確権限が曖昧
支援が薄い支援が厚い

孤立する

決めることはできるが、社内の情報や人に届かず、判断の材料が集まらない。

立ち上がる

決める範囲が分かり、必要な情報と人に早く届く。

消耗する

何を決めてよいか分からず、相談先もない。早期離職が起きやすい状態。

依存する

周囲が手厚く支えるが、決めるのは結局代表。本人の役割が見えなくなる。

図3 権限の明確さと支援の厚さで見る、着任後の状態

左下が危ういことは言うまでもありませんが、右下も見落とされがちです。支援が厚いこと自体は良いことでも、権限が曖昧なまま支援だけが厚いと、幹部は自分が何のために呼ばれたのかを見失います。

代表との関係は、選考の中で試せる

経営幹部の早期離職で、表に出にくいものの大きな比重を占めるのが、代表との関係です。能力も経験も十分でも、議論の進め方や意思決定の速さが合わなければ、仕事は続きません。

この相性は着任してから分かるものと思われがちですが、一部は選考の中で確かめられます。実際に社内で決まっていない論点を一つ出し、代表と候補者が議論する場を設けると、反対意見をどう扱うか、どこで折り合うかが見えてきます。

選考の議論で見ておくこと

代表が、候補者の反対意見を最後まで聞けるか。候補者も同じ場で、その様子を見ています。

議論が決着しないとき、どちらが、どのように引き取るか。

候補者が、会社の説明と違う前提を指摘したときに、社内側がどう反応するか。

着任の前後で、何を言葉にしておくか

早期離職を防ぐという観点に絞ると、確認すべきことは多くありません。大切なのは、それを口頭の合意ではなく、書かれたものとして双方が持っていることです。

1

課題を一文で書く

このポジションが解く課題を一文で書き、代表と取締役会が同じ文に合意しているかを確かめます。

2

権限の範囲を書き出す

人事、予算、取引先に関する判断について、本人がどこまで決められるかを一覧にします。

3

開示する情報を決める

計画と実績、組織の課題、過去の経緯のうち、着任前に何を見せるかを決めます。

4

見直しの場を置く

着任後の早い時期に、代表と本人が前提のずれを話す場を、あらかじめ予定に入れておきます。

図4 ずれを着任前に言葉にするための順序

四つ目は、ずれを起こさないためではなく、ずれが起きたときに早く気づくための場です。ずれは起きるものとして扱い、それを小さいうちに話せる仕組みがあるかどうかで、その後の展開は大きく変わります。

次の採用に向けて、何から始めるか

過去に幹部が早く辞めた経験があるなら、まずその理由を聞き直すことから始められます。本人が去ってから時間が経っていれば、当時よりも率直な話が聞けることもあります。

  1. 過去に辞めた幹部の理由を、四つのずれの類型に当てはめてみる。
  2. 今回のポジションで、選考時の説明と実態に差が出そうな点を書き出す。
  3. 任せる範囲を、言葉ではなく判断の一覧として書く。
  4. 代表と候補者が論点を一つ議論する回を、選考に組み込む。
  5. 着任後に前提を見直す場を、着任前に日程として決めておく。

早期離職は、誰か一人の判断の誤りというより、採用の過程で言葉にされなかったことの積み重ねとして起きます。言葉にしておけば、少なくとも同じ理由で繰り返すことは避けやすくなります。

本記事は経営幹部の早期離職についての一般的な整理であり、特定の企業や案件について述べたものではありません。

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